ドキュメンタリー映画「日本原 牛と人の大地」
2022年9月17日から第七芸術劇場で公開
岡山県北部山間地の奈義町に陸上自衛隊「日本原演習場」がある。ここで耕作権を持つ牛飼いの内藤秀之さん一家の生活を追いかけたドキュメンタリー映画「日本原 牛と人の大地」(東風配給)が17日から大阪の第七芸術劇場で公開される。監督の黒部俊介(42)と制作の黒部麻子(40)に撮影の狙いなどを聞いた。
俊介は東京生まれで早大卒業後、日本映画学校で学ぶが、卒業して映画の道をあきらめ書店に勤務。福島第一原発事故を機に岡山県に移住した。「ここで出会ったのが、奈義町にある日本原で牛飼いをしている内藤さん一家。岡山大学医学部で医者を志していたヒデさんが何故、牛飼いになったのか。ここは日露戦争後に旧陸軍の軍事演習場になり自衛隊が引き継ぎ今日まで続いている施設。ヒデさんが自衛隊と闘い続けている姿を見て、僕も何かをしなければと思った」
麻子は東京で俊介と知り合い、岡山移住を勧めた。「仕事で落ち込み、原発事故でシーベルトの数字を気にしていた彼を励ますために、知らない土地でやり直そうと思った。好きな映画をやりたいと聞いたとき最初私は乗り気でなかったが自分一人でどんどん動いてやり始めた。岡山で障がい者支援の仕事を熱心にやっていてパワハラに遭った後だったこともあり、映画作りが彼の精神的回復になればという気持ちで見守っていた」
「ヒデさんは演習場に入る『入会』権を持った住人で、そこでじゃがいもなどの耕作を行っている。多くいた仲間の住人は全部いなくなり、今は秀之さん一家だけになった。一方で演習場は自衛隊と米軍の共同訓練が盛んになっている。コロナ禍、ウクライナ侵攻の戦争の影響が顕著になっている。そんな中、ヒデさんは妻の早苗さん、長男の大一さん、次男の陽さんらとここで淡々と生活し闘っている」
ヒデさんは1969年、大阪の扇町公園で行われたベトナム戦争反対の佐藤栄作首相訪米反対集会に参加し、誘った大学仲間の糟谷孝幸さんが機動隊に逮捕され翌日亡くなった。「その無念の思いを引きずりながら今もヒデさんは牛飼いを続けている。自分の生活と一緒の闘い。僕の方が随分と励まされる撮影になった」と俊介監督。麻子プロデューサーは完成した映画を見て「やってよかった」と笑顔を見せている。2人は岡山移住後結婚している。
9月18日、黒部俊介監督、黒部麻子プロデューサーと内藤秀之さんの舞台あいさつが予定されている。
写真=「ヒデさんは生活と一緒に闘っている」と話す黒部俊介監督(右)と黒部麻子プロデューサー=第七芸術劇場
映画『日本原 牛と人の大地』公式サイト|監督:黒部俊介 (nihonbara-hidesan.com)