「坂東玉三郎特別公演」
「東海道四谷怪談」
「元禄花見踊」
2022年8月2日~28日  南座
先月の「坂東玉三郎舞踊公演」に続いて、劇場前には「満員御礼」の看板。演劇界に少しにぎわいが戻ってきたようだ。今月は玉三郎と片岡愛之助が共演、演目は夏にふさわしい「四谷怪談」とあった、これは当然でもある。
最近はあでやかな舞踊公演が多い玉三郎だが、今回は芝居を。それも、右目が大きく腫れた、お岩さんに。一方、、さわやかな立役が多い愛之助が、救いどころがない極悪非道の田宮伊右衛門に扮した。映画などでは、ことさらに「怖さ」を強調する演出、趣向も多いが、この舞台は歌舞伎の様式を踏襲しながら、リアルな人間描写を心がけているようだ。例えば、赤ちゃんのためにも「健康を取り戻したい」と伊右衛門から渡された薬を、ゆっくりゆっくりと飲む場面。なんでもない光景で、冗長になる危険性もあるが、これを細やかなしぐさで演じていく。そして、薬を飲んだことで容貌がかわったお岩、みどころの1つ「髪すきの場」で、長い髪を櫛でとかすと…。そうした、しぐさを誇張することなく、紡いでいくことで、1人の女性としてのお岩が浮き彫りになっていた。
今回は時間の関係もあって、「四谷町伊右衛門浪宅の場」「伊藤喜兵衛内の場」「元の浪宅の場」のみの上演。いわゆる戸板返しなど、ダイナミックな趣向がないのは惜しいが、そのことによって、「怖さ」よりも「哀れ」がにじみでる舞台だった。
一方、舞踊は「チョンパ」で始まって、元禄の女、若衆たちが登場。歌舞伎から新派に移った喜多村緑郎(市川月乃助)、河合雪之丞(市川春猿)も久しぶりに歌舞伎の衣裳を身にまとい舞を披露。内容もビジュアルも対照的な2作をそろえ、自分を含めた観客は満足な表情で、猛暑の京都を歩いた。
写真提供:松竹 「©松竹」

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