宝塚雪組公演「心中・恋の大和路」
2022年7月20日~28日
シアター・ドラマシティ
2022年8月3日~9日
日本青年ホール
初公演から108年が経つ宝塚歌劇団。オリジナル作品を軸に、さまざまなジャンルの作品を原作に、それをタカラヅカ化して人気を集めている。最近では海外ミュージカルや漫画などによるものも多いが、資料を見ると、初期の頃はいまよりも一般的になじみがあった歌舞伎ものを上演していたが、だんだんと「古典芸能」となるなか、なかなかこういったジャンルが上演されることが少なくなっている。
「心中・恋の大和路」が初演されたのは1979年。作・演出は歌劇団座付きの演出家だった菅沼潤。この人、大学生時代は学生歌舞伎で舞台に立っていた経歴もあることから、「西海に花散れど」など日本ものも手がけているが、代表作品が近松門左衛門・原作をアレンジしたこの作品。ただ、遊女の梅川と飛脚問屋の忠兵衛との悲恋は、歌舞伎では「恋飛脚大和往来」、文楽では「冥途の飛脚」「けいせい恋飛脚」という題名で上演されている。この「心中・恋の大和路」は、「冥途の飛脚」より、というクレジットが入っているので、厳密に言えば、文楽をタカラヅカ化したというのが正しいのだろう。
想像だが、菅沼が「冥途の飛脚」をベースにしたのは、忠兵衛と友人である八右衛門という人物の設定に関係しているのだろう。「恋飛脚大和往来」では、八右衛門が、策略によって忠兵衛を貶める人物として描かれている。それはそれで芝居どころがある役なのだが、やはり「熱い友情」というものが、宝塚の時代物にマッチしていると、「冥途の飛脚」を原作に選んだのかもしれない。1979年の初演以来、菅沼亡き後も谷正純・演出によって、今日まで再演を重ねられている。
この物語の大きなみどころは、雪が降りしきるなかでの心中の場面。儚く、美しい抜群に美しいシーンで、蜷川幸雄が演出した「近松心中物語」や大衆演劇では梅沢富美男・武生兄弟による名場面でも観客を魅了した。「心中・恋の大和路」では、その場面に、八右衛門の歌声が重なる、宝塚ならではの名シーンを生み出している。また、この作品には、身請けされて花街・新町を去る花魁という人物を設定することで、その対比として、梅川と忠兵衛のなさぬ仲が強調されている。花街と日常と隔てる大門をくぐり市井へ向かう花魁。よく知られている花魁道中で練り歩く時の「外八文字」という足運びから、〝普通〟の歩みに戻ることで、市井の町で暮らし始める花魁を象徴。その姿を眺める梅川、隣りで自分がそれをしてやれないつらさを吐露する忠兵衛の姿が切なく、これも印象に残る場面になっている。
〈配役〉亀谷忠兵衛(和希そら)、梅川(夢白あや)、丹波屋八右衛門(凪七瑠海)、藤屋(悠真倫)、孫右衛門(汝鳥伶)ほか。
雪組公演 『心中・恋の大和路』 | 宝塚歌劇公式ホームページ (hankyu.co.jp)